譲渡制限株式の譲渡承認の拒絶に基づく売買価格の決定の際や株式買取請求権の行使により買取価格を決定する場合(会社法117条等)などにおいて株式の評価が問題になることがあります。どのような評価法を用いるかという問題のほかに譲渡制限株式のような市場価格のない非上場会社の株式価値の評価に際して、非流動性ディスカウントの適用がなされるべきかについてはいくつかの裁判例が存在します。
非流通ディスカウントとは、上場会社の株式と比較して非上場会社の株式は流通性が低く、株式を換金しようとするときは追加的なコストがかかるため、非上場会社の株式を上場会社の株式よりも低く評価することをいいます。
抜粋
非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。
抜粋
譲渡制限株式の評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、市場性がないことを理由とする二重の減価を行うこととなるから、相当ではない。しかし、前記事実関係によれば、本件各評価額の算定過程においては、相手方らに類似する上場会社の株式に係る数値が用いられる一方で、本件各株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれない。
したがって、DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると解するのが相当である。
事例によって異なる結論となるため争いを避けるためには深く検討することが必要です。