遺産の分割は全ての遺産を対象にして一度で分割するほうが計算も楽ですし法制度の趣旨に合致しています。
しかし遺産分割全体を長期化させないために、争いがない遺産のみ先に分割協議を先行させることが必要な場合もあります。
例えば、相続税納付のために特定の不動産のみ分割協議を行い売却する場合や、預金の使途について争いがあって預金の分割が長期化しそうな場合に他の遺産を先に分ける場合があります。
遺産の一部のみについて遺産分割協議を行うことは当然可能です(民法第907条)。
相続人間で協議が整わない場合、家庭裁判所に遺産の全部または一部分割を請求することができます。ただし、一部の分割によって他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときは、遺産の一部請求は認められません。
例えば、多額の特別受益があるのに一部の遺産のみ先に法定相続分で分割しようとする相続人がいる場合や、他にどれだけの遺産があるか判然としないのに不動産を全部取得しようとする相続人がいる場合などです。このような場合は一部分割の申し立てがあったとしても家庭裁判所は申し立てを不適法として却下します。
(遺産の分割の協議又は審判)
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
3 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
4 前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
5 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
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養育費に関する民法が改正されました。この改正は令和8年5月までに施行されます。
これまでは養育費に関する合意文書が公正証書以外だった場合、相手が養育費の支払いを怠った時に相手の財産を差押えるためには、調停等の申立てを行ったうえで調停調書等(判決のようなもの)を得る必要がありました。
つまり①訴状(調停申立書)を作成し、②養育費の取り決めがあったこと・養育費支払いがないこと・相手方の住所地等を証拠として書面で準備し、③印紙代や切手代を調べ上げて、④裁判所に書類を提出し裁判所に行き審理を受ける という一般の方にとって大変な作業をする必要がありました。
今回の改正により、養育費債権に民法306条の先取特権が付与されます。
この改正により父母で作成した養育費の取り決めに関する文書さえあれば、公正証書や裁判を経ることなく相手の財産に対する差押えの手続きができるようになります。先取特権が付与される額は、今後法務省令で決まる予定です。
なお、改正法施行前に養育費の取り決めがされていた場合には改正法施行後に発生する養育費に限って法律適用されます。
民法
(一般の先取特権)(現行法)
第三百六条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
民事執行法
(不動産担保権の実行の開始)
法第百八十一条 不動産担保権の実行は、次に掲げる文書が提出されたときに限り、開始する。
一 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事事件手続法第七十五条の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
二 担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
三 担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
四 一般の先取特権にあつては、その存在を証する文書
(動産競売の要件)
第百九十条 動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「動産競売」という。)は、次に掲げる場合に限り、開始する。
一 債権者が執行官に対し当該動産を提出した場合
二 債権者が執行官に対し当該動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出した場合
三 債権者が執行官に対し次項の許可の決定書の謄本を提出し、かつ、第百九十二条において準用する第百二十三条第二項の規定による捜索に先立つて又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合
2 執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあつたときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができる。ただし、当該動産が第百二十三条第二項に規定する場所又は容器にない場合は、この限りでない。
(債権及びその他の財産権についての担保権の実行の要件等)
第百九十三条 第百四十三条に規定する債権及び第百六十七条第一項に規定する財産権(以下この項において「その他の財産権」という。)を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証する文書(権利の移転について登記等を要するその他の財産権を目的とする担保権で一般の先取特権以外のものについては、第百八十一条第一項第一号から第三号まで、第二項又は第三項に規定する文書)が提出されたときに限り、開始する。担保権を有する者が目的物の売却、賃貸、滅失若しくは損傷又は目的物に対する物権の設定若しくは土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)による収用その他の行政処分により債務者が受けるべき金銭その他の物に対して民法その他の法律の規定によつてするその権利の行使についても、同様とする。
2 前章第二節第四款第一目(第百四十六条第二項、第百五十二条及び第百五十三条を除く。)及び第百八十二条から第百八十四条までの規定は前項に規定する担保権の実行及び行使について、第百四十六条第二項、第百五十二条及び第百五十三条の規定は前項に規定する一般の先取特権の実行及び行使について準用する。
鹿児島市T株式会社様は会社を畳むことになったので、法人格を消滅させる手続きとして株式会社の解散登記及び清算結了登記を実施しました。
特別な手続き(破産や特別清算)以外で会社を閉じるには、会社の財産をプラスマイナスゼロにしなければなりません。
資産価値のあるものは換価し残余財産の分配等または名義変更を行い、マイナスのものは会計に従って処理しなければなりません。
財産が残った状態で会社を閉じてしまうと、登記記録の復活が必要な場合もあるので注意が必要です。
解散にあたっては公告も必要となります。
確定申告や各種届出も必要です。
T株式会社様の清算手続及び登記手続は滞りなく完了しました。
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遺言執行者とは☟
遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。遺言書で指定できます。相続財産の管理や名義変更、不動産登記など、遺言の内容を具体的に実行する役割を担います。
遺言執行者を指定しない場合は、遺言の内容を実現するためには法定相続人全員が動かなければならない場合があります。
例えば、Aが自身の法定相続人ではないBに土地を遺贈するという遺言書を作成した場合において
①遺言執行者をBと定めた場合
BのみでB名義とする名義変更登記が可能
②遺言執行者を定めなかった場合
BとAの法定相続人の全員の実印押印がなければ名義変更登記ができない
②の場合はトラブルになることがありますので、遺言書を作成する場合は遺言執行者を指定することを強くお勧めしております。
さて本題の「通知」についてお伝えします。
改正前民法では遺言執行者の通知に関する条文はありませんでした。
通知がないことでトラブルになるケースもあったため、以下の条文が新設されました。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
通知をしなくても遺言の効力とは無関係であると考えられていますが、通知を怠った場合には善管注意義務違反・そこから生じる損害の賠償責任が生じかねませんので通知は必須です。
通知内容については法律の定めはありませんので、遺言書のコピーを送付する等でかまいません。
当事務所でも遺言執行者就任の実績は多数ありますのでお困りの際はご相談ください。
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鹿児島市S様は購入した中古住宅についての所有権移転登記(名義変更)を実施しました。
売主様は権利証を紛失されていたため、本人確認情報(司法書士又は弁護士が不動産所有者と登記申請者が同一であることを調査し、その結果を作成した文書。保証書みたいなものです)を作成しました。
僭越ながらなりすまし等には気をつけなければなりません。細心の注意を払い取引に臨みます。
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前回からの続きです。
前回は持戻しの計算方法をお伝えしました。
ただ、常に持戻し計算がされてしまう恐れがあると、長年連れ添った夫婦間で自分の死後の配偶者の生活を心配して自宅贈与を行った場合に、配偶者の遺産の取り分が少なくなってしまい、生活を心配して贈与したことが仇になってしまいます。
そのため改正前民法でも贈与等を行った者が、「この贈与は持戻し計算から除外する」という意思表示を行っていた場合には、持戻し計算を行わないことが可能でした。
ただこの規定は一般の方にはあまり知られていませんでしたので利用されることはあまりありませんでした。
そこで民法改正により、持戻し免除の推定規定を創設しました。
(特別受益者の相続分)
民法第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
推定規定が定期用される要件は👇
①婚姻期間が20年以上であること
②夫婦間での遺贈又は贈与であること
③贈与等の対象物は居住用不動産であること
贈与等が行われる時点で対象不動産に居住していることが必要です。贈与等に時点で現に居住していなくても、近く居住用として利用する目的があれば要件に該当すると考えられています。
本条は推定規定であるため、本人が推定規定の適用を望まない意思表示をしていた場合は適用されません。
また持戻し免除と遺留分侵害額請求とは別個も制度であるため、持戻し免除が適用されたとしても遺留分減殺請求の対象となり得ます。
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相続手続きを行う際に、被相続人から生前に大学の学費や住宅などの高額な贈与を受けた相続人がいる場合においてまで各相続人、法定相続分どおりに遺産をわけるとなると、被相続人から何ももらっていない相続人との間で不公平が生じます。
持戻しとはこの不公平を少しでも少なくするために存在する制度です。
具体的には相続人に対する生前贈与や遺贈を、相続分を計算する上で「特別受益」として、遺産にその特別受益額を持戻したうえで、各相続分を計算します。
例えば、夫が死亡し遺産が1000万円である。妻は生前に夫から500万円の贈与を受けていた。子は1人である。という場合、
普通に計算すると
妻の相続分=1000万円×1/2=500万円
子の相続分=1000万円×1/2=500万円
妻は生前に500万円もらっているから実質総額1000万円取得することになる。
制度を利用して計算すると
妻の相続分={(1000万円+500万円)×1/2}-500=250万円
子の相続分=(1000万円+500万円)×1/2=750万円
となります。
制度利用するかは相続人次第であり、特別受益が成立するか否かに争いがある場合は案件ごとに検討されることになります。
次回は持ち戻し免除の推定についてお伝えします。
(特別受益者の相続分)
民法第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
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相続土地国庫帰属制度に関して法務省民事局の文献で大事なものをピックアップしてみました。なお検討にあたっては各法務局での実際上の運用をご確認ください。
1.制度開始から令和5年度までに承認申請がされた後に取下げられたものは154件あった。うち79件は土地の有効活用につながったものとみられる。
申請がされると境界に争いがあるかどうかを確認するため、法務局から隣接地所有者に対し、承認申請がされた旨を伝えている。また、土地の有効活用の機会を確保するため、申請がされた旨の情報を地方公共団体や関連する期間に提供することとされており、これらを契機として隣接所有者による土地の引き受け、自治体の土地引き受け、農業委員会の土地斡旋につながったとみられている。
2.承認申請の審査については、標準処理期間(8か月)内に審査が完了した事案が相当数存在し順調に運用されている。
3.「信託」は制度上の「相続」に該当しないため、手放したい土地を信託してしまうと申請できなくなる。「遺贈」は相手方が相続人ではない場合は要健を満たさない。
4.隣接所有者との間で所有権の境界が争われている土地等は申請却下事由とされているが、この要件で審査の対象となるのは、所有権であり筆界ではない。またこの所有権界の判断にあたっては、確定測量が要請されているわけではない。具体的な審査方法は、①申請者が認識している隣地との境界が表示されているか ②申請者が認識している申請土地の境界について、隣地所有者が認識している境界と相違がなく、争いがないか、という観点から判断される。このうち②については、法務局から隣地所有者に対する通知書に対して無回答の場合や不達の場合は、異議がないものとして扱われる。確定測量のような隣地所有者の積極的同意までは要求されていない。よって「14条地図にない地域であるから」とか「山林だから」との理由で要件を満たさないと安易に判断してはいけない。法務省としては却下・不承認とすることは、決して容易な判断ではない。
5.不承認事由である崖地とは「勾配が30度以上であり、かつ高さが5メートル以上のもの」が必要である。いかに危険な崖地でもこの基準に満たないものはこの要件を理由に不承認にすることができない。また上記の意味での崖地に該当する場合でも、人の生命等に被害を及ぼす又は隣地に土砂が流れ込むことによって財産的な被害を生じさせる可能性があり、擁壁工事等を実施する必要があることが客観的に認められることが必要である。よって近隣に民家や道路があるか、またハザードマップ等で急傾斜地崩壊危険区域等に該当しないか、該当したとしても擁壁工事が完了しているかを検討していく必要がある。
6.手数料は21万円以上ではあるが、毎年草刈りや損害賠償リスク対策として年に数万円、数十万円を負担している遠方の者がいることも事実であるから、手数料が高額に感じるかどうかは案件ごとに検討すべきである。
制度がうまく活用されることを願っております。
鹿屋市S様は契約のため鹿屋市のご自宅に伺いました。
定期的に鹿屋案件を取り扱っております。
共通の趣味の話題で盛り上がりました。