配偶者居住権が成立する場合、建物所有者は配偶者に対し配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。
登記事項は「存続期間」及び「第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定め」です。(不動産登記法第3条9号、81条の2)
登記手続きは原則通り共同申請となります。遺言があったとしても当然には配偶者が単独で申請することはできません(遺言執行者が配偶者であれば従前どおり登記権利者兼登記義務者して可能)。審判手続で確定したものについては、登記義務の履行を命ずる審判を取得すれば単独で申請することができます。
登記は第三者に対する対抗要件です。
つまり登記をしておかなければ、建物が売却されて見ず知らずの第三者に渡ってしまったときは配偶者居住権を主張できず第三者の明け渡し請求に対して配偶者は応じなければなりません。
登記をしておけば、所有権者と同様に建物への妨害排除請求権、返還請求権を行使することができます。
善管注意義務などは配偶者短期居住権と同様です。
なお、配偶者は居住建物について通常の必要費を負担しなければなりません。
つまり、固定資産税や居住にあたって通常発生する必要費は配偶者が負担しなければなりません。
これ以外の非日常的な必要費(例えば災害による修繕費)や有益費(例えばリフォーム代)はその価格が現存する場合に限り、配偶者は建物所有者に対して償還請求することができます(第196条)。払った分を返して下さいと言えるということです。
最後に 配偶者居住権の消滅について
相続後に配偶者が高齢者施設等に入所することとなったときなど、居住権を現金化するためには建物所有者に買取を要求するか、相続人の承諾を得て第三者に建物を賃貸借する方法しかありません。配偶者居住権の買取請求権は条文化されていないため、遺産分割協議で将来的な買取条件について別途合意するなどあらかじめ現金化のための策を講じておくとなお良いかと思います。
①配偶者が居住建物の用法遵守義務や善管注意義務に反した場合、居住建物の所有者は配偶者に対する意思表示により配偶者居住権を消滅させることができます。
②配偶者は居住建物が消滅し居住建物を返還するときは相続開始後に居住建物に付属させた物を収去する義務を負います。また、相続開始後に居住建物に生じた損傷を現状に回復する義務を負います。
③配偶者が死亡したときは配偶者居住権は消滅します。
④配偶者居住権の対象建物が滅失したときは配偶者居住権は消滅します。
以上、配偶者居住権についてでした。
今後、本制度の需要が見込まれます。
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(配偶者居住権の登記等)
第1031条
居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
(不動産賃貸借の対抗力)
第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第605条の4
不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
(配偶者による使用及び収益)
第1032条
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
(居住建物の修繕等)
第1033条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
(居住建物の費用の負担)
第1034条
配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
(居住建物の返還等)
第1035条 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第1036条
第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。
(期間満了等による使用貸借の終了)
第597条
当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第600条
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。
2 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(転貸の効果)
第613条
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
3 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
第616条の2
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。