相続土地国庫帰属制度に関して法務省民事局の文献で大事なものをピックアップしてみました。なお検討にあたっては各法務局での実際上の運用をご確認ください。
1.制度開始から令和5年度までに承認申請がされた後に取下げられたものは154件あった。うち79件は土地の有効活用につながったものとみられる。
申請がされると境界に争いがあるかどうかを確認するため、法務局から隣接地所有者に対し、承認申請がされた旨を伝えている。また、土地の有効活用の機会を確保するため、申請がされた旨の情報を地方公共団体や関連する期間に提供することとされており、これらを契機として隣接所有者による土地の引き受け、自治体の土地引き受け、農業委員会の土地斡旋につながったとみられている。
2.承認申請の審査については、標準処理期間(8か月)内に審査が完了した事案が相当数存在し順調に運用されている。
3.「信託」は制度上の「相続」に該当しないため、手放したい土地を信託してしまうと申請できなくなる。「遺贈」は相手方が相続人ではない場合は要健を満たさない。
4.隣接所有者との間で所有権の境界が争われている土地等は申請却下事由とされているが、この要件で審査の対象となるのは、所有権であり筆界ではない。またこの所有権界の判断にあたっては、確定測量が要請されているわけではない。具体的な審査方法は、①申請者が認識している隣地との境界が表示されているか ②申請者が認識している申請土地の境界について、隣地所有者が認識している境界と相違がなく、争いがないか、という観点から判断される。このうち②については、法務局から隣地所有者に対する通知書に対して無回答の場合や不達の場合は、異議がないものとして扱われる。確定測量のような隣地所有者の積極的同意までは要求されていない。よって「14条地図にない地域であるから」とか「山林だから」との理由で要件を満たさないと安易に判断してはいけない。法務省としては却下・不承認とすることは、決して容易な判断ではない。
5.不承認事由である崖地とは「勾配が30度以上であり、かつ高さが5メートル以上のもの」が必要である。いかに危険な崖地でもこの基準に満たないものはこの要件を理由に不承認にすることができない。また上記の意味での崖地に該当する場合でも、人の生命等に被害を及ぼす又は隣地に土砂が流れ込むことによって財産的な被害を生じさせる可能性があり、擁壁工事等を実施する必要があることが客観的に認められることが必要である。よって近隣に民家や道路があるか、またハザードマップ等で急傾斜地崩壊危険区域等に該当しないか、該当したとしても擁壁工事が完了しているかを検討していく必要がある。
6.手数料は21万円以上ではあるが、毎年草刈りや損害賠償リスク対策として年に数万円、数十万円を負担している遠方の者がいることも事実であるから、手数料が高額に感じるかどうかは案件ごとに検討すべきである。
制度がうまく活用されることを願っております。